2016年4月の熊本地震。
しばらく学校も長い期間休校となり、家族でゆったりとした、しかしどこか落ち着かない日々を過ごしていました。
当時小学生だった息子は、地震に対してとても敏感になっていました。
ちょうど横浜で恐竜展が開催されていたこともあり、気分転換も兼ねて、東京に住む父のもとで少しの間過ごすことにしたのです。
私たちはその頃すでに離婚していましたが、子どものことについては驚くほど自然に、よく話し合っていました。
だからこそ、この選択も特別なことではなく、ごく自然な流れで決まりました。

当時の空港には、これまで見たこともないほど黄色い立ち入り禁止テープが貼られ、日常から切り離されたような非常事態の空気が漂っていました。
そんな中、息子の背負ったリュックのポケットからは、その頃お気に入りだった『おばけのQ太郎』のコミックスが、ひょっこり顔を出していました。

この本には、少し特別な思い出があります。それは、息子が自分で描いた絵を売って手に入れた、一冊だったからです。
自分の力で好きなものを手に入れたという小さな達成感。
その本は、ただの漫画ではなく、幼い彼にとって自信のかけらのような存在だったのかもしれません。
不安な空気に包まれた旅立ちの日も、いつものお気に入りがそばにあることで、小さな心のお守りになっていたように思います。
息子が絵を売って『おばけのQ太郎』の単行本を手に入れたことについては、坂口恭平さんの著書『ズームイン、服!』の中でも綴られています。

あの日の空港の緊張感と、リュックを背負って歩く息子の後ろ姿は、今でも鮮明に覚えています。
日常が突然大きく揺らぎ、形を変えてしまったあの春。
不安と、小さな誇らしさが入り混じった旅立ちの記憶は、今も私たちの心の中にある大切な引き出しにしまわれています。






