ECショップを運営していた頃、熊本から遠く離れた場所に住むお客様がいました。
何度もリピートしてくださる方で、いつしか商品のやり取りだけではなく、電話でお話しすることもあるようになりました。
路面だけのお店ではあり得ない、こういったご縁がECではあり、やりがいを感じていました。
ある日、その方から、化学物質アレルギーになり香水を使えなくなったと連絡をいただきました。
「もう使えないから」と、愛用していた3本の香水を送ってくださったのです。

香水だけでなく、のど飴と坂本龍一のCDまで。
そして、セルジュ・ルタンスのアラニュイ。
どれも、その方らしい美しい香りでした。
ヴィトンのローズは娘が気に入ってしまい、いつの間にか私の手元から旅立って行きました。

サンタ・マリア・ノヴェッラは、最後の一滴まで大切に使いました。
そして、アラニュイだけは、今も残っています。
単純にジャスミンだけの香りがするときもあれば、他の花も混じった花束のようなこともあります。
イメージとしては、木綿のワンピースにも似合うし、ヴィニール素材の身体にぴたりと沿う、少し妖しいつなぎにも似合う。
この香りは廃盤でもあるため、少しずつ使っています。
香りを纏うたび、また、ボトルを手に取るだけでも、ふと思います。
あの方は、今どうしているのだろう。

乳がんの治療で生活が大きく変わり、ECショップは閉じることになりました。
朦朧とした中も、慌ただしい日々。
店の書類やお客様情報は、紙のものも全てシュレッダーにかけました。
個人情報を守るために必要なことでした。
でも、あの方と繋がっていた証になるものまで、消えてしまったような寂しさが残っています。
それでも、アラニュイを手に取れば、あの頃の会話や、遠く離れた場所から届いた優しさが戻ってくる。
香水は、ただ香りを纏うものではなく、時間を閉じ込めた小さな瓶でもあるのです。
香りの記事を、ほかにも書いています。






