Amazone Eau de Fraicheur Hermès

1999年。
私は池袋で働いていました。

休憩時間、オレンジ色の熱気に誘われて

池袋駅、西武百貨店側東口

仕事の合間の短い休憩時間、ふらりと立ち寄った西武池袋本店の1階。
そこには、エルメス「星を巡る旅展」と連動した、特別な空間が広がっていました。

別フロアでは展示も行われていて、館全体がひとつの世界観で動いているような、少し熱を帯びた空気。
凛としていながら、どこか自由なムードが漂っていました。

「可憐」から「自立」へのシフト

それまでの私は、資生堂のアンジェリークや、ローラアシュレイを使っていました。

けれど、そのとき出会った「アマゾン ライト」は少し違ったのです。

エルメスの名香「アマゾン」を軽やかにしたその香りは、みずみずしいグリーンの奥に、少し苦味のあるパウダリーな緊張感と気品を秘めていました。

当時は、資生堂がエルメスのフレグランスを手がけていた時代。
日本の繊細さとフランスの伝統が、幸福に混ざり合っていた特別な時期だったのかもしれません。

軽やかさだけではなく、どこか芯のあるものへ自然に惹かれたのだと思います。

香りと一緒に、世界観を持ち帰る

その場で購入を決めた私に手渡されたのは、香りだけではありませんでした。

曇りガラスのようなクリアグリーンのビニールに、白い合皮をあしらったボトルを模したミニリュック。
香りを染み込ませて使う、陶器のチャーム付きペンダント。
さらに、ヴァンキャトルフォーブルのバスソルトとソープまで。

今思えば、それは単なる「おまけ」ではなく、ブランドの世界観ごと持ち帰るための、小さな魔法のようなアイテムだった気がします。

ミニリュックは、その日、エルメスの腕時計を嬉しそうにつけていた知人に譲りました。
あの頃は、好きなものを好きな人へ渡していくことにも、自然な楽しさがありました。

ボトルに残った、あの頃の自分

その後、何度かリピートしたアマゾン ライト。
当時の私にとっては、まさにシグニチャーの香りでした。

Amazone Eau de Fraicheur Hermès

使っていた期間は、今愛用しているジッキーより短いはずなのに、
あの頃は日々が濃く、忙しく、よく動いていたからか、とても長く身にまとっていたような感覚が残っています。

ある日、残りがわずかになり、昼休憩の時間に西武池袋本店のエルメスへ向かいました。
西側1階にあったその売り場に足を踏み入れた瞬間、不思議と店内には誰もいなくて、まるで貸し切りのような静けさ。

アマゾン ライトを買い足すつもりだったのに、勧められたのは、バッファロー革に包まれた筒状のケースに入ったアマゾンでした。

「ライト」のはずが、気づけば違う存在を選んでいる。
予算は大幅にオーバー。
それでも、そのときの私は迷いませんでした。

いま思えば、あれもイギリス仕込みの“香りへの探求”だったのかもしれません。

その後、そのバッファロー革に包まれたアマゾンは、妹の友人が持っていた、1990年代後半の花椿CLUB配布のオードパルファム「カメリアシュペリエール」と交換されることになります。

どちらも簡単には手に入らない、少しマニアックな存在。
お金で手に入れるというより、誰かの手元から、また誰かへと巡っていくような感覚でした。

香りオタクたちの、小さな秘密取引。

いま思えば、そういうやりとり自体が、とても贅沢だったのかもしれません。

Un Jardin Sur Le Toit Hermès

その後、エルメスの「屋根の上の庭」や、「ジュール ドゥ エルメス アプソリュ」も使ってみました。

どちらも素敵な香りでした。
けれど、きっと思い出補正もあるのでしょう。
やっぱり私にとって特別なのは、アマゾン ライトなのです。

久しぶりにつけてみようと思ったものの、残りはほんのわずか。
結局、代わりに少しだけ残っていたアマゾンを纏いました。

Amazone Hermès

すると、不思議なくらい気分が上がったのです。

香りは、時代ごと閉じ込めている

アマゾン ライトは、すでに廃盤となり、簡単には手に入らなくなってしまいました。
使うのが惜しくて、そのまま残しています。

蓋を開けると、池袋の街を忙しく歩いていた頃の自分が、一瞬で立ち上がる。

「Olive」で知った、“自分にとって本当に良いもの”を少しずつ集めていく楽しさ。
百貨店にまだ文化の熱があった時代。
香りを通して、知らない世界へ手を伸ばしていた頃の自分。

その原点のひとつが、この小さなボトルに詰まっている気がするのです。

アマゾン ライトについて

海外の香水レビューサイト「Fragrantica」では、アマゾン ライトについて

“fresh green floral”
“elegant and independent”

といった表現が見られます。

main accords(多い順に)
woody, citrus, aromatic, green, fruity, yellow floral…and so on